こちらのクリニックに通院して5ヶ月した頃に、体外受精に切り替えをする事になりました。
まずタイミング法からスタートしたのですが、受精は叶いませんでした。
月に1回のタイミング法で4度の経験をしましたが、ダメでした。
よく「タイミング法▶︎人工授精▶︎体外受精の流れでは?」と聞かれることもあるのですが、
基本的に人工授精は女性の体と男性の精子との相性が悪い場合のみ有効で、私達夫婦は相性が良かったため、人工授精は意味がないと判断されたからです。
これはフーナーテスト(注1)というテストによって診断を行いました。
ちなみに人工授精の場合も、5回トライしてダメだった場合、6回目の妊娠の確率は1パーセント以下になりますので、6回目からは体外受精へ切り替えとなります。
体外受精がスタートすると、準備段階から薬・注射・通院日と全て細かく計画的に進められていくので、
タイミング法の時のように、ふんわりとした状態で妊娠判定を待っている時よりも、ぐっと安心した覚えがあります。
しかし、ここでもスムーズに進みませんでした。
突然、採卵が中止になるという事態が。
原因は、採卵の前日にいきなり私の卵子が巨大化してしまったからです。
体外受精をするにあたっての採卵のため、二ヶ月近く薬の服用・注射、そして通院をしてきました。
これまでずっと、できるだけリラックスできるよう自身の精神的なコントロールもしていたのに、全てが仕切り直しに。
院長先生からも「こんなケースは今までにない。」とまで言われてしまいました。
私の卵子が巨大化してしまった理由として考えられるのは、
採卵に向けて、卵巣内に卵子を薬や注射によって育てていかなければならないのですが、私の場合PCOS(注2)だったため、もともと卵巣内に卵子の数が多い。
そのため、少しでも薬等のタイミングを間違えると、数の多い卵子が一気に巨大化したり、また、逆に全然育たなかったりしてしまいます。
この時、左右の卵巣内に巨大化した卵子がギュウギュウに詰まってしまい、内診中のエコーに映った自分の卵巣内を見て、素人の私から見てもギョッとするような状態。
大きなビジュー(卵子)がゴロゴロとぎっしりついたクラッチ(卵巣)が見えました。
そのため、卵巣がテニスボール以上に腫れて6ヶ月の妊婦さんのようなお腹の膨らみ。
そして、お腹が痛すぎて体を折り曲げなければ歩く事ができない程の痛みに襲われ、激痛を伴いました。
しかし、そんな事よりも
「今までの頑張りが全て水の泡になってしまった。
そして、自分だけがこんな事になってしまっているという現実、妊娠の可能性どころか、そのステップにさえ進めない。」と、お会計を済ませクリニックを出た瞬間に涙が止まらなくなりました。
夫に電話をして事情を話しましたが、夫も言葉を失い、私も涙・なみだでうまく話す事ができませんでした。
その日の夜、とあるご夫婦のホームパーティーに招かれていました。
夫はこんな状況だし、行くのはやめようと言ってくれましたが、こちらの勝手な都合ですので、私は「絶対に行く」と言い張り、お邪魔することに。
すると、お伺いした先の初めてお会いする奥様は、妊婦さんでした。
・・・こんな偶然ってあるんだ。
一瞬だけ「神様は意地悪だな」と言う思いが頭をよぎりましたが、ここは根性です。
この日の午前中に涙を流した時、『もう何があっても妊娠をするまでは絶対に泣かない。
そして、私は人として生きる。どんなことがあっても人として生きる。』と自分に誓ったから。
不妊治療中、辛い事ばかりの連続でした。
でも、こういう色んな出来事を日々繰り返し、自分を奮い立たせ続けた中で、こんな私にも、『強さとほんの少しだけの優しさも身についたかな。』と、思います。
さて、
またイチから採卵に向けてスタートです。腹水がたまってしまったお腹が落ち着いてからの仕切り直し。
日々卵子は老化をしているわけですから、私には時間がないと焦りもありましたが、仕方がありません。この再スタートを切るまで更に二ヶ月かかりました。
やっと採卵ができ、受精卵が何とか二つできましたが質が悪い。かろうじて移植することができるレベルの受精卵でした。
それでも希望を捨てず移植をしましたが、案の定撃沈。
院長先生から、一度大学病院に転院し、卵巣の腹腔鏡手術を行う事を勧められました。
それは、巨大化した私の卵巣の中に卵子がたくさんあり、
その卵子も未熟で古い物ばかりだったため、一度腹腔鏡手術をして、卵巣内の卵子を全てレーザーで焼いて綺麗にする必要があったのです。
『そんな話、聞いた事がない。』
正直、そう思いました。
結果の出る不妊治療専門のクリニックに通っているのに、私はとにかくスムーズに進まない。
しかも、何で私だけ他の病院で入院して全身麻酔の手術をしなければいけないのか、と絶望的な気持ちになりました。
ここまでしないと私は子供ができないのか、ここまでしないとダメなのかと、とにかく葛藤、かっとう、カットウ・・・。
その日は、夕方から主人と居酒屋でお酒を浴びる程飲みました。
この時ばかりは、本当に飲まないとやってられなかったです。
その時に主人から言われました。
『手術、別にしなくてもいいよ。
でも、acoの性格上、きっと手術しなかった後になって後悔しちゃうんじゃない?』
と。
翌日、朝一番で院長先生に
『大学病院で手術を受けます。』
と言い、紹介状を書いてもらっていました。
体外受精をスタートして、手術を勧められるまでに既に7ヶ月もの時間を費やしていたのです。
(注1)
*性交後試験・ヒューナーテストともいいます。
フーナーテストとは、性交後の子宮頚管粘液の中にある精子の状態を見る検査です。
検査の12時間前くらいまでに性交渉をして、子宮頚管から粘液を採取して顕微鏡で調べます。
粘液中に精子が確認できないと無精子症や抗精子抗体、子宮頚管炎などが疑われることもあります。
(注2)
卵巣にはたくさんの卵細胞があり、平均して月にひとつずつ成熟し、排卵します。
卵細胞は卵胞という袋に包まれていて、発育するにつれてこの袋が大きくなっていき、
およそ2cmくらいの大きさになると破裂して、卵胞の中の液体とともに卵細胞が排卵されます。
多嚢胞性卵巣症候群とは卵胞が卵巣の中にたくさんでき、
ある程度の大きさにはなるのですが、排卵がおこりにくくなる病態です。
aco(あこ)さん
短大卒業後、幼稚園教諭、チャイルドマインダーと乳児、幼児に8年間かかわる。
その後、大の美容好きが高じて美容業界へ転職し、化粧品メーカーの営業を行う。
2011年結婚を機に退職し、妊活に専念。
不妊治療と並行して、子供がいない人生についても考えており、趣味の料理やテーブルコーディネートを深めるためにフードコーディネータースクールに通う。
2014年12月男児出産。現在育児とのバランスを見つつ、子連れ参加可能の料理教室やアルバム作りのお手伝い(アルバムカフェ)を開催している。